先月読んだ本

忙しくてしっかり忘れていたけど先月(2019-09)読んだ本は5冊でした。

新刊だと

いけない

いけない

 とか

夏物語

夏物語

 とか読みました。

夏物語かなり良かった。生命の意味と川上未映子の見る世界。

前半は「乳と卵」のリライトなんだけど、そこから深い後半が始まる。

個人的2019年新刊ベスト本の予感がしている。

以下引用

そのうち、いつか誰かと話した言葉と、そうでない言葉の見分けがつかなくなってゆく。夢でみた景色と記憶がゆるやかに編みこまれ、どこまでが本当のものなのかがわからなくなっていく。いくつもの裸を包む細かな霧にはほんまは音があるんとちゃうか。高い壁、男湯と女湯を仕切る高い壁、銭湯のカコーンという鹿威しの音が響いている。湯船に浸かるたくさんの女たちの裸がこちらを見ている。たくさんの乳首がいっせいにこっちを見る。湯気がこもり、わたしは足の裏を揉んでいる。かかとはいつも皮がささくれだっていて、剥いても剥いてもきれいにはならない。

もしかしたら明日、この生活のすべてをそっくり変えてしまう何かが起きるかもしれない、とは思ったことあったかも」
仙川さんは目をつむって軽く頭をふった。「もしかしたらそれが、妊娠とかだったりするのかな、とは思ったことはありました。漠然とですけど。わたしにもいつか、そういうことが起きるのかもしれない、出会うのかもしれない、これまでみんなの人生に起きてきたみたいに、自分の人生にだっていつか、そんなことが起きるのかもしれない。そう思ったことはありました。でもその『いつか』がわたしにやってくることはなかった」

旦那の愚痴ばっかりで。そういう記事とか本とか多くないですか?ママ作家とかもそんなのばっかりでしょう?出産本とか育児本とか、苦労と共感系っていうか。産まれてきてくれてありがとうとかね。作家がそんな凡庸な感情を書いていったい何になるんですか。わたしからすれば、ああいう身辺雑記を書いたら小説家なんてそこで終わりですよね」

作家がそんな凡庸な感情を書いていったい何になるんですか?

内容が凡庸な上に絵の下手なInstagram漫画、死ぬほどあるよね。 

ねえ、子どもを生む人はさ、みんなほんとに自分のことしか考えないの。生まれてくる子どものことを考えないの。子どものことを考えて、子どもを生んだ親なんて、この世界にひとりもいないんだよ。ねえ、すごいことだと思わない?それで、たいていの親は、自分の子どもにだけは苦しい思いをさせないように、どんな不幸からも逃れられるように願うわけでしょう。でも、自分の子どもがぜったいに苦しまずにすむ唯一の方法っていうのは、その子を存在させないことなんじゃないの。生まれないでいさせてあげることだったんじゃないの」「でも」わたしは考えて言った。「それは――生まれてみないと、わからないことも」「それは、いったい誰のためのことなの?」善百合子は言った。「その、『生まれてみなければわからない』っていう賭けは、いったい誰のための賭けなの?」「賭け?」わたしはつぶやくように訊いた。

彼女は正しいことを言っていて、そしてわたしは間違っていたのに。

とてもよかった。


二〇〇四の九月、十二歳の誕生日をすぎてまもなく、ぼくはほぼ四六時中、しあわせな気分でいるようになった。

グレッグ・イーガンしあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

Written on October 5, 2019